金融サービスにおける顧客体験の将来

モバイルなどのデジタルチャネルを通じた強力なカスタマーエンゲージメントは、金融サービス業界で必須のものとなりました。成人人口の 77% がスマートフォンを所持する時代では、高パフォーマンスのモバイルサイトとモバイルアプリケーションへの対応は前提条件です。顧客体験が、伝統的なブランドへのロイヤルティに勝る状況下(特にミレニアル世代)では、新興 Fintech 企業に対抗するために、金融機関はモバイルチャネルに精通し、デジタルへの取り組みを全面的に展開し続ける必要があります。

顧客の期待と当局の規制が変化する中で、金融サービス業界はこれに対応するため変容の最中にある

対応すべき困難

モバイルデバイスがいたるところで使われるようになり、接続速度も世界中で引き続き向上していることで、社会におけるビジネスの姿が劇的に変化しました。モバイルバンキングもその先進的事例の 1 つです。米国の連邦準備制度当局は 2016 年に報告の中で、スマートフォンを所有する銀行利用者の 53% がモバイルバンキングをなんらかの形で利用しており、モバイル利用の拡大はこれからも続くだろうとしています。

顧客の期待と当局の規制が変化する中で、金融サービス業界はこれに対応するために様変わりをする最中にあるものの、その道は険しく、競争は熾烈です。消費者のプライバシーに関する法規制も、デジタルへの取り組みに関わる複雑性に拍車をかけています。一方で、デジタルネイティブな Fintech 企業は、金融サービスの定石を覆しつつあります。金融機関は、顧客との関係と顧客体験の強化、価値提案の再定義、およびビジネスモデルやプロセスの最適化に焦点を確実に合わせる必要があります。

今日の利用者は、満足感や解決がその場で得られることを当たり前と考えています。金融機関にとっては、モバイルデバイスとその他のチャネルを結ぶシームレスな体験(たとえば Web からモバイル)を実現することで、企業価値と顧客定着率を向上させる真のチャンスです。これは直感的なプラットフォームとアプリケーション、セルフサービス機能およびクリックツーコールやチャットのコミュニケーションを提供することを意味します。状況に敏感な競合他社に対抗するには、安全かつシームレスで信頼でき、しかも高速という、利用者が求めるような体験が可能になるクラウドベースの技術を、継続して活用する必要があります。

金融機関は、顧客との関係と顧客体験の強化、価値提案の再定義、およびビジネスモデルやプロセスの最適化に焦点を確実に合わせる必要があります。

利用者の習慣と期待の変化に適応することが必要

金融サービス業界で、Fintech 企業は銀行のない世界を標榜しています。ブロックチェーンと暗号通貨は、紙幣やクレジットカードが介在しない資金の取引です。担当者なしでも、ロボット型アドバイザーを利用してポートフォリオの管理ができます。モバイル支払いで、モバイル端末がクレジットカードになります。新興企業にとって、旧来のインフラストラクチャも、旧来のビジネスモデルも、高パフォーマンスのウェブ体験を提供する妨げにはなりません。

顧客が求めているのは、利用者のニーズを満たし、予測さえも行う、高速でシームレスなクロスチャネルの没入型デジタル体験です。これは、人口動態の上で急速に支配的になりつつあるミレニアル世代で特に当てはまります。ミレニアル世代全般の期待と、根本的に異質な銀行や投資に関する習慣とを併せて考えると、金融機関が次のような状況に対応する必要があることは明らかです。

  • 現在利用している金融サービス機関を今後数年間は利用し続けようと考えるミレニアル世代は 50% 未満です。
  • ミレニアル世代の 2/3 にあたる 67% が、現在は金融サービスを提供していない Nike、Google、Apple など、信頼するブランドの金融サービスを利用してみたいと考えています。
基本的なオンライン取引を対象に優れた体験を提供するだけでは不十分です。金融機関は、ローンの申込みや商品の構成変更のような複雑な取引を提供することで実力を示す必要があります。金融機関はこれまで以上に複雑なデジタル取引を行うため、パフォーマンスへの注目が集まるばかりです。現実に、今日の積極的な利用者たちは、ソーシャルメディアをはじめとするさまざまなプラットフォームでの毎日のやり取りの影響もあり、あらゆるサイトとアプリケーションで高パフォーマンスと高速な動作を求めます。

Fintech 企業はブロックチェーン、仮想通貨、ロボアドバイザー、モバイル支払いなどの利用による、銀行のない世界を標榜しています。

デジタルな顧客体験を変容させることで成果を獲得

利用者の要求を特定し満足させることに焦点を絞り込むことで、金融機関はモバイルなどのデジタルチャネルを成長へ向けた突破口にすることができます。例えば、米国の小売銀行についてのギャラップ調査では、エンゲージメントの高い利用者は、エンゲージメントの低い利用者に比べて、メインバンクにもたらす年間収益が 37% 高くなることが判明しています。また、エンゲージメントの高い銀行利用者は、取引銀行でより多くの商品を継続的に利用しており(当座預金口座、普通預金口座、住宅ローン、自動車ローンなど)、同じ商品を利用しているエンゲージメントの低い利用者よりも、口座の預金残高が高くなっています。

モバイルなどのデジタルチャネルに熱心だった既存金融機関と新興金融機関はともに、優れた成果を上げています。以下に例を示します。

  • オランダでは、SNS Bank が Web の物理的な拡張として機能するアドバイザリー重視のキャッシュレスバンキング店舗を開設し、支店の概念を再定義しました。こうした店舗は、同行と他のサービス提供会社双方の複雑な商品の販売に特化した「コンサルタントスタイル」のモバイル営業を特長としています1
  • アトランタを拠点とする Kabbage は、さまざまなデータソースを使用してリスクを評価し、小規模企業や消費者に数分間で最大 10 万ドルを貸し出すことのできる引受プロセスを開発しました2
  • ドイツの Fidor Bank 利用者がローンを申請すると、数秒で承認の可否が判明します。同行はまた、お客様が複数通貨の規制された e-wallet である Currency Cloud を使用して、通貨をオンラインで購入したり、さまざまな通貨で支払ったりすることを可能にしています3

ミレニアル世代にみられる根本的に異質な銀行や投資に関する習慣を考えると、金融機関が次のような状況に対応する必要があることは明らかです。

極度に多様化した環境下ではパフォーマンスとセキュリティが課題

とは言え、インターネットを通じたサービスとコンテンツ配信に特有の困難さゆえに、ユーザーを惹きつけるモバイルと Web の体験を生み出そうとする途上で、各企業は著しく高い技術的ハードルに直面しています。次のような点に主な課題が存在します。

デバイスの多様性:デバイスの特性によって利用者集団が細分化されていることで、エンドユーザーに適正な体験を提供することが困難になっています。使用できるデバイス、ブラウザー、オペレーティングシステムの数だけユーザーは著しく細分化されます。毎日約 24,000 種類(今も増加中)のモバイルデバイスが Facebook にアクセスしています。現在の環境では、多様なユーザーがコンテンツにアクセスしますが、どのユーザーも一様に質の高いパフォーマンスを求めます。

接続性:固定接続、ブロードバンド、Wi-Fi、セルラーネットワークのいずれであろうと、地域によって接続性は異なります。接続性の問題は特にモバイル利用者にとって深刻で、いわゆる「ラストマイル」の制約に耐えている状態です。そうした制約には、基地局のスループット不足、回線の切断、モバイル端末の処理能力やメモリー容量の不足などがあります。

セキュリティリスク:サイバー攻撃がかつてないほど激しく金融サービス業界を標的にするようになってきている現在、金融機関は信頼性の高い優れた体験をすばやく提供することに関心を寄せるだけでなく、利用者と金融機関自体を守るために、クラウドベースの強力なツールを活用することも求められています。

細分化され常に進化を続ける現在の状況に即したデジタル体験の構築とサポートはコストが高く、複雑すぎることがあります。

デジタルエンゲージメントの向上に必要なもの

細分化され常に進化を続ける現在の状況に即したデジタル経験の構築とサポートを、組織内の IT チームで行うことはコストが高く、複雑すぎることがあります。金融機関が安全かつ高速で信頼できるモバイル体験を提供するには、コンテンツの配信にインテリジェントでスケーラブルな分散型クラウド配信プラットフォームを活用して、パフォーマンスを最適化し、高度なセキュリティ確保を実現する必要があります。モバイル体験に対する利用者の要求を満たすために重要な 3 つの要素は、次のとおりです。

  • シームレスであること。金融機関は、複数のデバイスによるクロスチャネルのやり取りからデータを収集することで、最新のアクティビティを認識し、パーソナライズされたサービス、提案およびプロモーションを各セッションで提供できます。利用者が期待する、あるいは期待を上回るサービスを提供するとともにロイヤルティを醸成する上で、クロスチャネルでの一貫性が重要です。
  • 高パフォーマンスを確保すること。先進的なクラウド配信プラットフォームでは、ウェブサイトとアプリケーションが常に利用可能で、かつすべての利用者に対して、場所やデバイスの種類にかかわらず最適なパフォーマンスが提供されます。これには、エンドユーザーや必要なコンテンツの近くに配置され、デバイス、ブラウザー、ネットワーク設定に合わせてリアルタイムの最適化が行われる、世界中に分散されたウェブサーバーとアプリケーションサーバーの存在が必要です。
  • サイバーセキュリティへの脅威を緩和すること。現在、オンラインでの脅威は、規模や頻度が増し、より巧妙になってきています。このため、金融機関は社会的評価の毀損、IT 生産性の低下、収益上の損失の点で、途方もないリスクに直面しています。分散型サービス妨害攻撃(DDoS)によるインシデントやウェブアプリケーションを対象とした攻撃の規模が増大する中、金融機関とその利用者は、自らのデータとデジタル資産が安全であることを改めて確認する必要があります。セキュリティ対策は、金融機関を外部の脅威から守る機能とインテリジェンスを備えた、グローバルなクラウドプラットフォームを利用して行う必要があります。

利用者が期待する、あるいは期待を上回るサービスを提供するとともにロイヤルティを醸成する上で、クロスチャネルでの一貫性が重要です。

結論

高度なセキュリティへの期待を満足させながら、パフォーマンスと可用性の最適化を実現する金融機関にとっては、顧客を維持し新たな顧客を引き付けるまたとない機会が到来しています。しかし、独力で取り組むにはやるべきことがあまりに膨大なため、デジタルサービスの提供に特有のリスクと複雑性の管理を支援できるクラウド配信プラットフォームプロバイダーと提携する必要があります。


1 McKinsey & Company、『Banking on customer centricity: Transforming banks into customer-centric organizations』
2同上
3同上