2025 年には、生成 AI(GenAI)への世界的な支出が 6,440 億米ドルに達すると予想されており、これは 2024 年比で驚異の 76% 増加となります。このことが示すメッセージは明確です。企業は、AI の導入で出遅れれば、存続の危機に直面すると考えているのです。しかし、AI があらゆる場面に普及している一方で、セキュリティリスクから業務上の問題まで、企業リーダーにとって AI の活用には依然として懸念がつきまとっています。
AI のリスクと潜在的な欠点が、その主張されたメリットの価値に見合っているかどうかについては、常に揺れている状態でした。イノベーションは、顧客体験と効率性に劇的な向上をもたらしますが、既存の業務に AI を切り離せないほどに組み込んでしまうと、深刻な結果を招く可能性もあります。
バランスを取るということ
テクニカルリーダーは、次のような絶妙なバランスの実現を迫られています。企業は、リスクを許容できないレベルまで高めることなく、どのようにして大規模な AI イノベーションを追求できますか?
Akamai が委託し、Forrester が実施した最新の調査では、企業が現在このバランスをどのように達成しているかについて、いくつかの回答が得られました。AI およびエンタープライズクラウド戦略の上級意思決定者 400 名を対象に実施したこの調査では、企業が自社のビジネスを保護するために必要なガードレールを構築しながら、価値を獲得するのに十分な速さでどのように動いているかを明らかにしています。
企業が AI のユースケースにどのように優先順位をつけているか
Forrester の調査では、企業のリーダーたちが AI を中核的なビジネス目標に直接応用しており、ビジネス戦略の中心に据えていることが明らかになりました。それでも、リーダーたちはリスクが低く、リターンの大きいアプリケーションを慎重に優先する傾向があります。
回答者は、AI 投資を推進する主な目的として、次の 3 つを挙げています。
- 顧客体験の向上(76%)
- 業務効率の改善(76%)
- 顧客維持の強化(71%)
他の調査でも一貫して、顧客体験(CX)の改善が、収益の増加、顧客離れの減少、そして競合他社との差別化の強化に直接つながることが示されています。
例えば、McKinsey & Company によると、「世界で最も成長に成功している企業が達成した価値創造の 80% は、彼らのコアビジネス、特に既存顧客から新たな収益を引き出すことによって生み出されています。」
最も優先度の高い AI ユースケースは、顧客に最も近いものである
企業が AI を導入するのは、「競争力維持のために必要だから」ではなく、企業のリーダーたちは、収益や成長に影響を与える測定可能な成果と結びつけることに注意を払っているのです。最も優先度の高い AI ユースケースが「顧客に最も近いものである」というのは、こうした理由があるからです。
半数以上の組織が AI アプリケーションを、パーソナライズ(53%)、顧客解決プロセスの自動化(53%)、顧客からの問い合わせ対応(52%)に活用しています。これらのアプリケーションは、より実験的なユースケースと比較してリスクが低く、迅速かつ明確な投資利益率をもたらすのが特徴です。
CX の即時的な改善に注力することで、企業はさらなる AI 活用への投資資金を生み出すと同時に、より野心的な取り組みのためにチームやインフラを準備することができます。
AI 導入に伴うリスクの状況
Forrester の調査は、企業のリーダーが AI について当初から抱いていた懸念の一部を反映しています。AI に関する主な懸念点は次のとおりです。
- サイバーセキュリティリスク
- コンプライアンス上の課題
- 評判への悪影響
- 財務的損失
サイバーセキュリティリスク
回答者の 63% がサイバーセキュリティを懸念していました。AI システムは、新たなアタックサーフェスを生み出すとともに、既存の脅威アクターも拡大させています。モデルポイズニング、プロンプトインジェクション、データ窃取などの脅威は、すでに実際の現場で確認されています。顧客向けアプリケーションが AI による意思決定に依存している場合、小さな脆弱性でも重大な侵害につながるおそれがあります。
コンプライアンス上の課題
各国政府が、EU の AI 法や米国のフレームワーク、業界別ガイドラインなど、AI に関連した新たな規制を制定する中で、企業は AI の拡張に伴い、コンプライアンス違反に関するさまざまな問題に直面しています。従来のソフトウェアとは異なり、AI には説明可能性、監査可能性、バイアス緩和といった特有の問題があります。規制を遵守できなかった場合、罰則、法的リスク、AI 導入の中断といった結果を招く可能性があります。
評判への悪影響
AI の障害は人の注目を受けやすいものです。バイアスのかかった推奨エンジンやハルシネーションを起こすチャットボットは、すぐにニュースとして取り上げられる可能性があります。お客様のデータプライバシーが侵害されるおそれがあります。特にお客様向けのユースケースでは、1 つの誤りが単なる技術的なイシューにとどまらず、ブランドを傷つける可能性があります。企業に対する信頼を取り戻すには、大きなコストがかかります。
財務的損失
不適切に導入された AI は、チャーン(顧客離れ)、機会の損失、投資の無駄につながる可能性があります。例えば、小売企業の AI チャットボットが誤解を招くような財務的アドバイスを提示した場合、企業は規制上の罰金や訴訟に直面するだけでなく、消費者からの反発も招きかねません。そうなれば、AI システムが本来目指していた「顧客維持の向上」を損なうことになります。
こうしたリスクの結果は、雪だるま式に広がって深刻な業務上の支障をもたらすおそれがあるため、企業のリーダーは AI 導入に細心の注意を払い、イノベーションのリスクとリターンを慎重に見極める必要があります。
企業がこのバランスをどのように達成しているか
AI の利点がリスクを上回るかどうかはまだ明らかではありませんが、今日の企業は無力というわけではありません。Forrester の調査に基づくと、企業のリーダーたちが互いに学び合えることは多くあります。具体的には以下の通りです。
- 反復的な導入
- AI トレーニングおよび推論のためのマネージドサービス
- クラウドネイティブおよびオープンソースの採用
- 強力なベンダーエコシステム
- 部門横断的なガバナンス
反復的な導入
野心的な GenAI プロジェクトに全力を注ぐのではなく、多くの組織が小規模な取り組みから始めています。顧客サービスの自動化など、制御されたユースケースで AI を展開することで、重要な業務を危険にさらすことなく経験を積むことができます。この反復的なモデルにより、企業はテストと学習を繰り返しながら、責任を持って規模を拡大していくことができます。
AI トレーニングおよび推論のためのマネージドサービス
AI インフラの構築と維持は複雑であり、企業はモデルのトレーニングや推論に関して、ますますマネージドサービスに依存するようになっています。これにより、運用上の負担が軽減され、専門知識によりアクセスしやすくなります。
リスクの高いタスクをアウトソーシングすることで、組織はリスクの露出を最小限に抑えつつ、展開を加速させることが可能です。重要なのは、自社と同等のセキュリティやリスク緩和基準を持つ企業のサービスを選択することです。
クラウドネイティブおよびオープンソースの採用
また、調査データによると、企業はクラウドネイティブおよびオープンソースの AI テクノロジーを積極的に試しています。クラウドネイティブなアーキテクチャは、スケーラビリティと回復力を提供し、オープン・ソース・テクノロジーは柔軟性とスピードを実現します。これらはどちらも、AI の導入とテクノロジーの更新に必要です。そのメリットは、長期的なベンダーロックインなしでアジリティを実現することです。
強力なベンダーエコシステム
AI 導入の複雑さを踏まえ、多くの企業は AI の専門知識を備えた実績あるベンダーを優先的に選定しています。これらのパートナーは、テクノロジーだけでなく、コンプライアンス、スケーラビリティ、セキュリティといった面でも企業をサポートしてくれます。強力なベンダーエコシステムは、AI 関連リスクを緩和するための戦略を支える基盤となります。
部門横断的なガバナンス
おそらく最も重要なのは、AI ガバナンスを IT 部門だけの責任にしてはならないことが、組織内で認知されることです。先進的な企業は、コンプライアンス、法務、セキュリティ部門を初期段階から関与させる、部門横断的なガバナンス体制を構築しています。このような包括的なアプローチにより、AI のイノベーションが規制要件や倫理的な AI 基準に適合することが保証されます。
データから浮かび上がってきた主な傾向は、企業が構造を通じてバランスを達成していることです。つまり、イノベーションとリスク管理を並行して進められるための足場を整えているのです。
インフラと AI リスク管理
運用体制に加えて、バランスの取れた AI 導入には堅牢なインフラが必要です。実際、Forrester の調査によると、企業の 55% が、AI 導入の最大の課題として「テクノロジーとプラットフォームのギャップ」を挙げています。
従来のクラウドプラットフォームは、大規模な推論処理のような AI 特有の高負荷ワークロードに対応するようには設計されていませんでした。レイテンシー、コスト効率の悪さ、データのローカリティー制御の不備といった要因が、顧客体験の低下からコンプライアンス監査のリスク増大に至るまで、さまざまなリスクを引き起こします。
そのため企業は、AI 性能に特化して構築された代替手段を模索しながら、インフラ戦略を見直しています。具体的には、分散ワークロードに最適化されたプラットフォームや、低レイテンシー推論、セキュリティ・バイ・デザインに対応した設計を使用することで、対応しています。
つまり、インフラは AI テクノロジーの基盤であるだけでなく、リスク管理における重要な部分でもあります。誤ったインフラ基盤を選択すると、脆弱性が拡大するおそれがあります。適切な基盤を選択すれば、AI は負担ではなく長期的な競争優位性へと変わります。
今すぐリスクを緩和し、将来のイノベーションを進める
企業の AI の取り組みは急速に進化しています。早期の導入では狭いユースケースが中心でしたが、その後、生成 AI の波は、コンテンツの作成、分析、自動化にまで広がりました。
ここからは、その次の段階である「エージェンティック AI」をご紹介します。エージェンティック AI とは、人間のために行動し、既存のコンテキストに基づいて意思決定を行う自律的なシステムを構築します。このような進化は、さらなる利益をもたらすことが期待される一方で、もちろん前例のないリスクも伴います。
AI の各フェーズは、可能性の拡大と同時に失敗した際のリスクも高めています。成功を収める企業とは、パフォーマンスが最適化され、回復力のあるインフラに投資し、初期段階からガバナンスとコンプライアンスを組み込むことで、反復的な導入を通じて組織内での AI の理解度を高めている企業です。
今こそ、技術部門の意思決定者が AI ソリューションとクラウド戦略、特に自社のインフラの選択を再評価して、責任と倫理を考慮しながら適切にスケーリングしていくための時期です。
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400 名の上級意思決定者が AI の開発・導入にどのように取り組んでいるか、詳細については、Forrester のレポート「エンタープライズ AI の現状:経験の蓄積とリスク管理」の全文をダウンロードしてください。
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