クラウドコンピューティングにおける AI:AI の普及で大きく変わるビジネス環境
目次
エグゼクティブサマリー
- クラウド AI とは、パブリックのクラウドプラットフォーム上でホスティングされている、人工知能(AI)を活用したサービスやリソースのことです。これらのツールはプロセスの自動化やリソース割り当ての最適化、多様なインテリジェント機能のサポートに使用されます。
- エッジ AI は、推論をはじめとする AI のワークフローを集約型のクラウド・データ・センターからエッジネットワークに移すことで、データが生成される場所に近いところでのコンピューティングを可能にします。これにより、レイテンシーが短縮し、リアルタイムの応答性とスケーラビリティが向上します。
- クラウドサービスやエッジコンピューティングと合わせて連続したコンピューティングで AI を運用できるようになると、クラウドを利用した製品やサービスの効率や効果が上がり、直感的な使いやすさが向上します。
クラウド AI とは
クラウド AI とは、クラウドコンピューティングと人工知能(AI)テクノロジーの統合を表す際に使われる言葉です。
AI ツールとクラウドコンピューティングが融合することで、それぞれの機能がエンドユーザーレベルでシームレスに統合されます。その結果、AI を活用した既存サービスの変革を加速させることが可能になります。これは各業界や企業、個人の間で生成 AI や機械学習が広く普及し、具体的なメリットが得られるようになってきた今、ますます重要になりつつあります。
Fortune Business Insights によると、クラウドコンピューティングにおける AI の年平均成長率は、2030 年までに 30% を上回る見込みです。
AI とクラウドコンピューティングの統合
クラウド AI という言葉の最も基本的な解釈は、パブリックのクラウドプラットフォーム上に AI サービスやリソースを配置することを指します。クラウドインフラ内において、AI のアルゴリズムは次のような用途に使われます。
- タスクの自動化
- リソース割り当ての最適化
- セキュリティの強化
- データ(特に大規模なデータセットを持つデータ)の分析
- パーソナライズされた体験の提供
こうした統合のメリットとしては、クラウドサービスの拡張がしやすくなることや、AI のインサイトを活用した効率化が可能になることなどが挙げられます。
お客様によるネットワークの可視性向上とポリシーの導入をサポートできるよう、Akamai は当社のクラウドプラットフォームやエッジネットワークと AI を統合するプロセスの一環として、AI を搭載した各種機能やウィザード、レポートをはじめとする大幅な機能強化を実施してきました。
自動化と機械学習の進化
自動化と機械学習アルゴリズムにより、クラウドコンピューティングではさまざまな面で大きなメリットが実現してきました。具体的には次のような点が挙げられます。
- リソース管理の効率化
- インテリジェントなコスト最適化
- セキュリティの強化
- スケーラビリティの向上
- 開発サイクルの迅速化
- 手動介入の最小限化
- 人的ミスの減少
さらに、AI モデルの実装により、分析を通じたクラウドサービス運用の合理化が容易になることで、より多くの情報に基づいた意思決定が可能になります。
AI によるデータ管理の改善
機械学習や AI の活用例として、特にわかりやすいものの 1 つがデータ管理です。大規模なデータセットの取り扱いは、AI を活用することで効率が大きく向上します。特に異常検知やデータの統合、品質チェック、可視化といったタスクが効率化します。
また、AI が予測分析を通じて傾向やパターンを正確かつ迅速に特定できるおかげで、データから得られる知見がさらに豊富になります。その結果、リアルタイムの意思決定の精度が向上することで、成果の最適化につながります。
クラウドサービスとインフラの強化における AI の役割
クラウドを活用した効率的かつ効果的なデータ管理を可能にする AI テクノロジーは、クラウドプロバイダーが自社のサービスやインフラを強化する際にも同じく活用されています。
クラウドプラットフォームを効率化する上では、タスクの自動化が鍵となります。大量の情報をリアルタイムで処理する能力は、異常検知を改善し、セキュリティを強化します。その結果、クラウドプラットフォームがさらにインテリジェントになることで、多様なクラウドアプリケーションやサービスで複雑なワークロードを管理しやすくなります。
AI を活用したクラウドコンピューティングの種類
クラウド環境は、主に次の 3 つに分かれます。
- パブリッククラウド
- マルチクラウド
- ハイブリッドクラウド
これらの環境はそれぞれ異なる方法で AI によって構築されてきました。
パブリッククラウド
パブリッククラウドはクラウドプラットフォームの中でも最も一般的な形式であり、企業はサードパーティベンダーを通じてオフプレミスのデータセンターにアクセスできます。AI がクラウドサービスや製品の機能を強化することで、より便利な機能を企業が利用できるようになります。
マルチクラウド
マルチクラウドのコンピューティング環境では、複数のパブリック・クラウド・プロバイダーをそれぞれ異なる目的で利用する手法が取られます。たとえば、グループウェアをホスティングするプロバイダーとモバイルアプリのプロバイダーなどを分けるといった形式です。複数のクラウド環境に AI のワークロードを分散することで、柔軟性とスケーラビリティが最大限に高まります。さらに、1 つの AI プラットフォームやサービスにとらわれることなく、クラス最高のクラウドツールを利用できます。
ハイブリッドクラウド
ハイブリッドクラウドは、パブリッククラウドとマルチクラウドのクラウドインフラを組み合わせて利用するモデルです。ハイブリッドクラウドにおける AI のメリットも、同じくパブリック環境とマルチクラウド環境で得られるメリットを組み合わせたものとなります。このモデルでは企業にとっての選択肢が増え、最適な結果が得られる環境で AI ツールを使えるようになります。
クラウドにおける AI のユースケース
クラウドコンピューティングで見られる AI のユースケースには、次のようなものがあります。
- 自然言語処理:構造化されていないテキストやデータを含む言語データを解釈する技術であり、他のユースケースにおけるコンテンツ管理やカスタマーサポートに利用できます
- チャットボット:自然言語処理の活用例の 1 つであるチャットボットは、AI を利用して顧客に対応する窓口となり、やり取りの効率化とカスタマーサービスの向上を促進します
- データ分析:上述のとおり、AI は大量のデータの処理や分析ができるため、意思決定の改善に役立つ知見をリアルタイムで入手できます
加えて、AI を通じて得られるメリットとしては、業務の合理化や人的ミスの低減ないし防止による生産性向上の実現や効率アップなどが挙げられます。
実社会におけるクラウド AI
クラウド AI は私たちの見えないところで使われているだけではありません。AI を使って製品やサービスを強化しているクラウドプラットフォームは実社会にも貢献しており、その影響はエンドユーザーも目にすることができます。
一例としては、AI がモノのインターネット(IoT)の最適化に活用されていることが挙げられます。継続的なデータ監視により、AI はデバイスやマシンが故障しそうなタイミングを特定し、対処の必要性を管理者に通知することができます。このプロセスは予知保全(または予兆保全)と呼ばれます。
今後の展望:クラウドコンピューティングにおける AI の未来
AI テクノロジーとクラウドサービスの統合は、今後さらなる広がりを見せていきます。AI がタスクを自動化し、大量のデータをリアルタイムに分析し、高度な分析を実施できるようになれば、クラウドを利用した製品やサービスの効率や効果が上がり、直感的に使いやすさが向上します。これは今エンドユーザーが得ているメリットと同じですが、その規模がさらに大きくなり、各種機能が強化されます。
言うまでもありませんが、こうしたツールの将来の姿を正確に予測しようとすることは愚の骨頂です。とは言え、注目すべき影響をもたらす 1 つのトレンドがあります。それは AI ツールがクラウド・データ・センターからエッジサーバーに移行していくことです。
エッジ AI とは
今後の流れとしては、AI をクラウド・データ・センターではなくエッジ・コンピューティング・センターに置くことが考えられます。知識に不安がある方のために、ここで簡単な補足をしておきましょう。
- クラウドコンピューティングとは、サーバー、ストレージ、データベース、ネットワーク、ソフトウェア、分析、インテリジェンスなどのコンピューティングサービスを、インターネット経由で取得し、使用する機能です。
- エッジコンピューティングとは、遠く離れた場所にあるセントラルロケーションでデータを処理するのではなく、データや知見をネットワークの外縁部に置き、意思決定を迅速化することを指します。
インテリジェンスをユーザーの近くに置く
エッジ AI とは、AI のワークフローをクラウド・データ・センターからエッジネットワークに移すことを表しますが、これは遠く離れた場所にある集約型のサーバーファームではなく、データが収集される場所に近いところでのコンピューティングを可能にします。
Grand View Research のレポートによると、エッジ AI の市場規模は 2025 年に 249 億米ドルに到達し、2030 年には 664 億 7,000 万米ドルに達すると予想されています。このレポートによると、2024 年のエッジ AI 市場は家電品業界と IT 通信業界がそれぞれ約 3 分の 1 を占めており、残りの 3 分の 1 を自動車業界、ヘルスケア業界、製造業が分け合っています。
AI ツールをエッジサーバーに置くことで、データがユーザーと AI の間を往復するのに必要な時間を短縮できます。エッジ AI のメリットを享受できるユースケースとしては、IoT やモバイルデバイスなどが挙げられます。これは AI を活用した機能がデバイスの近くやデバイスそのものに置かれることで、離れた場所にあるデータセンターに頼る必要がなくなり、リアルタイムで意思決定を下すことが可能になるからです。
クラウド AI とエッジ AI:両者の違いを知る
この 2 つの形式それぞれの利点を理解するためには、両者のプラットフォームの AI アーキテクチャを比較する必要があります(図を参照)。
クラウド AI プラットフォームはスケーラビリティを備えているため、処理能力の需要が高まっても、必要に応じてその需要を満たすことができます。
エッジ AI プラットフォームでは、リアルタイムの処理を特に必要とするデバイスの近くで処理が行われます。これはデータがユーザーに近い場所で保持されることで、データ侵害などのサイバーセキュリティの脅威に直面する機会が減り、コンプライアンス要件に対応できるということでもあります。
クラウドコンピューティングのプラットフォームであれ、エッジ AI プラットフォームであれ、インフラへの投資や専任担当者の雇用を必要とすることなく、個人やあらゆる規模の企業が利用できるのは変わりません。
クラウド AI か、それともエッジ AI か、正しい選択をするためには
さて、ご自身にとって最適なプラットフォームはどちらでしょうか?テクノロジーにまつわるビジネス上の意思決定ではいつものことですが、さまざまな要因を検討した上で判断する必要があります。しかし、AI 開発戦略を決める際にぴったりの出発点としては、2 つの大きな側面があります。それはスケーラビリティとリアルタイムデータです。
スケーラビリティ:クラウド AI の利点は、大規模なデータセンターの処理能力や柔軟性にあります。高い処理能力を利用しなければならない場合や、膨大な量のデータを処理する場合、あるいはストレージの需要が時々急増する場合は、クラウド AI が有利です。
リアルタイムデータ:AI のワークロードをエンドユーザーに近いエッジサーバーに移動させると、処理速度が大幅に向上すると同時に、AI データのセキュリティが向上します。また、リアルタイムのデータ分析や超低レイテンシーを求める場合は、エッジ AI を利用すると、エンドユーザーやデバイスになるべく近いところでデータを処理できます。
未来はここにある:クラウド AI とエッジ AI が形作る未来
AI がクラウドコンピューティングのあり方を形成し続けている背景には、膨大な量のデータを処理し、以前は手動による操作が必要だった多くの機能を自動化できる点があります。元から生産性の高いプラットフォームをさらに合理化することで効率が上がり、クラウド・コンピューティング・プラットフォームのユーザーに大きなメリットをもたらしているのです。
エッジサーバーで AI の活用が増えていく中でのリアルタイムデータ分析の利点としては、超低レイテンシーを必要とする一方で、単純な処理能力にはあまり依存しない IoT デバイスやモバイルデバイスの機能を強化できることが挙げられます。
クラウドコンピューティングとエッジコンピューティングにそれぞれ異なるメリットがある以上、今後もクラウドコンピューティングとエッジコンピューティングの相乗効果は引き続き得られると考えられます。クラウドからエッジへの移行は、AI が画期的な新機能を実現できるようにすることで、クラウドコンピューティングにおける AI の未来に欠かせない役割を果たす可能性があります。
しかし、テクノロジーが進化していくたびに、クラウドコンピューティングとエッジコンピューティングそれぞれの利点が曖昧になっていくとしても、この 2 つのモデルが広く利用されている限り、クラウドコンピューティングとエッジコンピューティングは相乗効果をもたらすでしょう。
さらに知識を深めるには
2024 年の Forrester Consulting による調査(Akamai が委託)に基づく Akamai のホワイトペーパーをお読みいただくと、AI コンピューティングにまつわるビジネス環境の変化を知ることができます。たとえば、クラウドに関する意思決定の担当者のうち、分散型クラウドが目標達成に欠かせないと考えている人は 76% に及び、AI の活用を優先事項と考えている人は 60% であるということがわかります。
AI がクラウドのコア機能からエッジアプリに移行していく中で、こうした動向に関する知識は経営戦略に欠かせないものとなっています。
このような環境の変化を貴社が正しく乗り越えていく上で役立つ情報を得られるよう、こちらのホワイトペーパーをダウンロードしていただくことをおすすめします。